埼玉県住宅供給公社

相談事例集

民間賃貸住宅関係

仲介手数料

不動産仲介会社の仲介により賃貸借契約を締結した場合、仲介手数料を支払う義務はあるか。
賃貸借契約が成立した場合には、貸主・借主の双方あるいは一方から、不動産仲介会社に対して成功報酬として仲介手数料を支払う必要があります。

■解説
(1)意義
「仲介手数料」とは、不動産仲介会社を通して物件の賃貸借契約を締結した場合に、契約を仲介した不動産仲介会社に支払う手数料(報酬)のことです。

(2)支払義務
不動産の賃貸借の仲介では、賃貸借契約が成立したときに不動産仲介会社の仲介手数料の請求権が発生するので(いわゆる「成功報酬」。一般媒介契約約款8条、商法550条参照)、賃貸借契約が成立した場合には、契約当事者(貸主・借主双方)は仲介手数料を支払う必要があります。

(3)金額の妥当性
仲介手数料の額については、宅地建物取引業法(以下、「宅建業法」という)46条1項を受けた国土交通大臣の告示が上限を定めています。
居住用建物の賃貸借契約の媒介の場合、不動産仲介会社は貸主・借主の双方からそれぞれ賃料の0.55ヶ月分以内の報酬を受けることができます。ただし、依頼者の承諾がある場合には、貸主・借主のいずれか一方から賃料の1.1ヶ月分以内を受領することができます(この場合も仲介手数料の合計額は賃料の1.1ヶ月分を超えることができません)。
例えば、貸主・借主双方が折半して0.55ヶ月分ずつ負担することもありますし、貸主・借主が合意すれば、借主が賃料の1ヶ月分、貸主が賃料の0.1ヶ月分の仲介手数料を支払うことも可能です。

参考資料)賃貸借トラブルに係る相談対応研究会「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集(改訂版)平成24年2月」より

家賃支払方法の指定

賃貸借契約締結に当たって、家賃の支払方法を指定された。従う義務はあるか。
賃貸借契約はあくまでも貸主と借主の合意が原則となります。契約条件となっている場合、当該物件の賃貸借契約を締結するためには、その家賃の支払方法に従わなければならないと考えられます。

■解説
家賃の支払方法は、賃貸借契約の履行方法についての当事者の合意となり、契約自由の原則によって、債務の履行方法に関する合意も有効であると考えられます。
したがって、現金持参、口座振込みといった家賃の支払方法に関して合意をしている場合は、当該方法に拘束されます。

参考資料)賃貸借トラブルに係る相談対応研究会「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集(改訂版)平成24年2月」より

連帯保証人を立てた上での保証会社との契約

気に入った物件で契約しようとしたら、連帯保証人を立て、さらに保証会社と契約しなくてはならないといわれた。従う必要はあるか。
賃貸借契約はあくまでも貸主と借主の合意が原則となります。契約条件として示されている場合、当該物件を賃貸借契約するためには、保証会社と契約する必要があると考えられます。

■解説
貸主がリスク低減のため、連帯保証人がいる場合でも保証会社の保証を条件とする賃貸物件もあるようです。

参考資料)賃貸借トラブルに係る相談対応研究会「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集(改訂版)平成24年2月」より

保険への加入義務

賃貸借契約の締結に当たって、保険への加入義務はあるか。
保険の加入が契約条件となっている場合には加入する必要があると考えられます。

■解説
法令によって強制されているものではありませんが、契約条件として保険への加入が義務づけられている場合、原則としてこれを受け入れることを前提に契約を締結することになります。
多くの場合、加入が義務づけられているのは、住宅総合保険であり、貸主の所有物である建物のほか、借主の所有物である家財に対しても補償されることが多いと考えられます。また、火災や水害の場合の補償だけでなく、借主が自らの瑕疵で水漏れ事故をおこしてしまった場合の補償や、その事故によって隣人や貸主に損害を与えた場合の損害賠償補償等が含まれることも多いです。保険の内容を良く理解し、加入すると良いと考えられます。

参考資料)賃貸借トラブルに係る相談対応研究会「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集(改訂版)平成24年2月」より

申し込み後のキャンセル

息子の大学入学のため、賃貸住宅を借りようと、申込書に記入し、「申込金」として、1万円を支払った。しかし、その後、地元の大学に合格したため、キャンセルしたいができるか。
キャンセルできます。また、契約成立前に不動産業者から要求されて支払った申込金は、預かり金として返還を請求することができます。

■解説
賃貸借契約を申し込む際、不動産業者から、申込金あるいは頭金・預かり金・手付金等の名目で金員の支払いを要求される場合があります。
その場合、契約成立前に支払われた当該金員は、預かり金とみなされ、入居希望者がキャンセルする場合、不動産業者は預かり金を返還しなければなりません(宅建業法47条の2第3項、国土交通省令及び同法施行規則16条の12第2号)。

参考資料)賃貸借トラブルに係る相談対応研究会「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集(改訂版)平成24年2月」より

合意のない契約内容変更

ペットを飼いたかったので、ペット禁止でない物件を探し住んでいた。今回、更新となり、送られてきた新しい契約書をみたら、突然ペット禁止特約が追加されていた。住み続けることはできないか。
合意による更新は基本的には貸主と借主の合意の上となります。特約の追加について、説明を求め、良く話し合うことが大切であると考えられます。
なお、法定更新は、賃貸期間を除き、従前の契約条件によることになりますが、生活上のルールのことは良く話し合うことが大切です。■解説
貸主から、契約条件変更の通知があり、借主がこれに応じるか、明確に拒絶しなかった場合には、提示された条件で賃貸借が更新されます。
更新は、貸主、借主の合意が原則となりますので、条件に応じたくない場合は、貸主と良く話し合う必要があります。
本件の場合、ペットの飼い方等で貸主や近隣住民等に迷惑をかけていないか等、良く事情を話し合い、今後の対応について相談することが大切であると考えられます。参考資料)賃貸借トラブルに係る相談対応研究会「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集(改訂版)平成24年2月」より

適正賃料

賃貸マンションの適正家賃というのはあるのか。
賃貸借契約の賃料は当事者間の合意によって決定されるもので、法令上上限金額が定められている訳ではありません。

■解説
賃料は、当事者間の合意によって決定されるものであり、法定上の上限や標準賃料のような定めが存在する訳ではありません。
賃貸住宅の家賃は、一般的に、立地、部屋の広さ、間取り、設備、建築物の構造、日照・通風等の条件等によって決められていると考えられます。必要に応じて他の類似物件と比較する等して、当該物件における条件と賃料について納得して契約することが大切であると考えられます。

参考資料)賃貸借トラブルに係る相談対応研究会「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集(改訂版)平成24年2月」より

家賃滞納の場合の支払猶予

家賃を滞納しているが、どのくらい支払いを猶予してもらえるか。
家賃の滞納は契約に違反する行為であり、家賃滞納により借主との信頼関係が破壊されたといえる場合には、賃貸借契約が解除され明渡し請求を受ける場合があります。どの位の期間滞納したら信頼関係が破壊されるのかという点については、個別事情によりますので、一概にいえません。

■解説
信頼関係が破壊されたか否かは、賃料不払いの程度、賃料不払いに至る事情、過去の賃料支払状況、解除の意思表示後の借主の対応等を総合的に考慮して判断がなされています。
賃料不払いという債務不履行による解除のためには、債務不履行解除の一般原則を定めた民法541条が要求する、①相当の期間を定めた催告、②借主がその期間内に賃料の支払をしないこと、③解除の意思表示が必要です。
ただし、判例は、賃貸借契約が長期間継続する契約類型であることから、④貸主と借主の信頼関係を破壊すると認めるに足りない特段の事情があることを借主が立証した場合には解除を認めないという、いわゆる「信頼関係破壊の法理」といわれる判例理論を確立させ、解除要件を厳格化しています。
一方で、当事者の一方が相互の信頼関係を裏切って賃貸借の継続を著しく困難にするような背信行為があった場合には、催告なしに契約解除できるとして解除要件を緩和しています。

参考資料)賃貸借トラブルに係る相談対応研究会「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集(改訂版)平成24年2月」より

家賃滞納の場合の分割払いの可否

既に滞納した家賃について、分割払いに応じてもらうことはできるか。
貸主に分割払いに応じる法律上の義務がある訳ではありません。貸主と相談することが大切であると考えられます。

■解説
本来は契約に定められた通り賃料を支払う必要があります。貸主に、滞納となった事情、支払う意思があり、分割払いであれば支払えることや(支払再開の見込みがあれば)支払再開の見込み等を説明し、十分に相談し、理解を得ることが大切であると考えられます。

参考資料)賃貸借トラブルに係る相談対応研究会「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集(改訂版)平成24年2月」より

支払済み家賃の未納請求

家賃の支払いを滞った覚えはないのに、家賃の滞納請求がきた。どうすれば良いか。
まず、家賃の支払先(例えば振込先)が契約上の支払先と一致しているか、貸主や管理会社の変更によって家賃の支払先に変更が生じていないか等、適切な支払先であることを確認しましょう。
貸主の指定する支払先に家賃を支払ったのであれば、既に支払った家賃の支払義務はありません。貸主に対し、例えば振込であれば振込依頼書、現金で支払った場合には当該現金を口座から出金した記録等を示し、何時どのように支払ったかを説明しましょう。
適切な支払先に支払っていなかった場合等、当事者間でどうしても話し合いがつかない場合には、ADR機関や調停手続等の紛争解決の専門機関に相談してみましょう。■解説
家賃を適切に支払っているのであれば、既に支払った家賃の支払義務はありません。
一方、貸主や貸主の指定する管理会社等の支払先に支払われていない場合(受領権限のない第三者等に支払ってしまっている場合)には、当該支払いは無効となる可能性もあります。
仮に契約上の支払先と異なる相手に支払いを行っていた場合であっても、全くの第三者ではなく経済的に一体と考えられる相手に対する支払いである場合や、支払先を誤ってしまうような蓋然性の高い場合(例えば民法478条の準占有者に対する弁済に該当する場合、表見代理が成立する場合等)には弁済の有効性を主張できることもあります。この場合には、まず事実関係をしっかりと把握することが重要です。参考資料)賃貸借トラブルに係る相談対応研究会「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集(改訂版)平成24年2月」より

支払済み家賃の未納請求

支払いを滞った覚えはないのに、大家からなんども滞納の督促をされた。よくわからなかったので、放置していたら、大家から家賃支払請求訴訟を提起されてしまった。領収証は捨ててしまっていた。どうすれば良いか。
既に支払請求訴訟を受けてしまったのであれば、弁護士等の専門家に相談することが必要になると考えられます。訴状が送付されている場合、第1回の裁判期日に答弁書も提出せずに欠席すると、原告の訴えを認めたものとみなされ敗訴となりますので、身に覚えがないとしても訴訟には対応することが必要です。

■解説
訴状が送付されている場合には、よくわからない内容であったとしても放置していると、貸主の主張が裁判によって全面的に認められる可能性もあります。また、支払いを滞らせていないのであれば、例えば振込明細、預貯金通帳等、支払いをしたことが客観的に分かるものを準備して、弁護士等の専門家に相談してください。

参考資料)賃貸借トラブルに係る相談対応研究会「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集(改訂版)平成24年2月」より

追い出し行為

家賃を滞納していたら、居住妨害をしてきた。どうすれば良いか。
借主が任意に退去しない場合であっても、貸主等が私的な明渡し強行行為に及ぶことは自力救済として禁止されており、違法行為です。

■解説
追い出し行為の違法性については、家賃滞納による賃貸借契約解除前と後に分けて考えることができます。

(1)賃貸借契約存続中
賃貸借契約存続中、貸主は借主に賃貸物件を使用収益させる義務を負っています(民法601条)。貸主は契約を解除するまでは、借主に退去・明渡しを求めることはできません。貸主が追い出し行為に及ぶことは、使用収益させる債務の不履行として損害賠償請求(民法415条)が可能です。

(2)賃貸借契約解除後
家賃を滞納し、それが貸主・借主間の信頼関係を破壊するに至った場合には、貸主は契約を解除(民法541条)することができます。契約が解除された場合、借主には賃貸物件を適法に使用収益する権利はなくなりますから、借主は貸主に対して建物を明け渡す必要があります。
もっとも、貸主が借主に対し適法に建物明渡しを求めたにもかかわらず、借主が任意に明け渡さない場合であっても、裁判所の強制執行等の手続きによって明渡しを実現する必要があり、自らの実力を持って権利の実現を図ることは許されず、違法となります(自力救済の禁止)。実際、裁判例においても、明渡し目的の自力救済者の行為の違法性が認定される場合がほとんどのようです。
そこで、追い出し目的で居住妨害行為に及んだ者について、借主に対する不法行為(民法709条)が成立し、借主は損害賠償請求をすることができます。

参考資料)賃貸借トラブルに係る相談対応研究会「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集(改訂版)平成24年2月」より

鍵の付け替え

家賃を滞納していたら、突然、無断で鍵が付け替えられており、自分の部屋から閉め出された。どうすれば良いか。
鍵を付け替えて居室から閉め出す行為は、借主の賃貸物件を占有使用する権利を侵害する行為に当たり、自力救済行為として違法となります。

■解説
(1)原則
賃貸借契約が継続中は、借主に使用収益の権利がありますから、貸主は借主を締め出すことはできません。
問題は、家賃滞納等により賃貸借契約が解除され、借主が使用する権利を失った後ですが、借主の占有権自体はあるものと考えられますので、裁判所の強制執行等の手続きによって明渡しを実現する必要があり、借主の占有権を排除しようとする行為は、自力救済として違法となると解されています。

(2)借主が同意承諾を与えていた場合
借主が事前に鍵の付け替え等について、特約によって同意を与えていた場合(例えば賃貸借契約書中に予め包括的に借主から物件の開錠をする権限を授与する条項が入っていた場合等)、そのような特約の有効性が問題となります。
このような条項は、どのような場合に権利を付与するかの定めにもよりますが、法の禁止する自力救済を許容する合意であり、違法とされる可能性があるほか、消費者契約法10条により無効とされる可能性も考えられます。そのため、このような条項があっても、貸主による実力行使は、民事上の不法行為に該当する可能性があると考えられます。

参考資料)賃貸借トラブルに係る相談対応研究会「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集(改訂版)平成24年2月」より

荷物の運び出し

家賃を滞納していたら、留守中に荷物を全て運び出されてしまった。どうすれば良いか。
原則として、借主の荷物は借主の所有物ですから、貸主が勝手に処分することはできないと考えられます。

■解説
(1)原則
明渡し後であっても、借主が残置した家具・調度品等の所有権は借主に属するので、貸主がこれを勝手に処分した場合は、民事上(損害賠償請求)、刑事上(窃盗罪、器物損壊罪等)の責任が生じます。

(2)残置品の処置の定めがある場合
借主の明渡しが完了しない場合に、物件内の動産の搬出や処分をする権限を付与する条項や、借主が物件内の動産の所有権を放棄する条項がある場合であっても、借主の意思に反して物件内に立ち入って動産を搬出・処分等することは、住居侵入罪等に当たる可能性や、民事上も不法行為に該当する可能性があると考えられます。

参考資料)賃貸借トラブルに係る相談対応研究会「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集(改訂版)平成24年2月」より

共益費

共益費とはどのようなものか。支払義務はあるか。
共益費とは、賃貸物件の共用部分(外灯、エレベーター、共有廊下、ごみ集積所等)の維持・管理のために支払う費用のことをいいます。契約条件に示され、合意している場合、支払わなければならないと考えられます。

■解説
賃貸借契約では、賃料のほかに毎月定額の共益費の支払いを明記したり、はじめから共益費込みで賃料を設定したりする等して、徴収されています。

<参考>
(共益費)
第5条 乙は、階段、廊下等の共用部分の維持管理に必要な光熱費、上下水道使用料、清掃費等(以下この条において「維持管理費」という。)に充てるため、共益費を甲に支払うものとする。
2 前項の共益費は、頭書(3)の記載に従い、支払わなければならない。
3 1か月に満たない期間の共益費は、1か月を30日として日割計算した額とする。
4 甲及び乙は、維持管理費の増減により共益費が不相当となったときは、協議の上、共益費を改定することができる。
資料)国土交通省「賃貸住宅標準契約書」

参考資料)賃貸借トラブルに係る相談対応研究会「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集(改訂版)平成24年2月」より

光熱費

賃貸アパートのプロパンガス契約を大家がまとめて契約している。別の会社との契約にしたいが、要求できるか。
貸主が一括してプロパンガス契約を締結していることを知って借主は契約を締結したのであれば、借主に変更を請求する権利までは認められないと考えられます。

■解説
基本的には貸主は、借主からの契約会社の変更の申入れに対して、応じる義務はないといえます。別の会社の料金の方が安い等の事情がある場合には、そのことを示す資料等を用意して、貸主に相談してみましょう。

参考資料)賃貸借トラブルに係る相談対応研究会「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集(改訂版)平成24年2月」より

水道費

貸主が一括して水道契約をしており、貸主から料金の請求が来るが、水道メーターに基づいて支払う額に、貸主の手数料分上乗せして請求されている。支払義務はあるか。
賃貸借契約の内容によります。仮に貸主が水道料金の請求等の事務手続きの手数料として料金を加算することを予め説明し、そのような契約書に借主が署名・押印して合意した場合には、料金の支払義務が生じます。

■解説
水道料金の負荷徴収方法も含めて賃貸借契約で決定されている場合には、当該契約に従う必要があります。手数料として不相当に高額であるとか、メーターで戸別に金額を把握できるのにそれをしない等、貸主の設定した金額が不当と思われる事情があれば、貸主と交渉するか、調停等で条件を話し合うことは考えられるかもしれません。
なお、水道料金については、貸主がアパート全体につき一括して契約を締結する「共同住宅扱い」という契約方法が存在します。この場合、貸主が戸別の水道料金の請求等の事務手続きを行っていることから、手数料を上乗せして徴収する貸主もあるようです。

参考資料)賃貸借トラブルに係る相談対応研究会「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集(改訂版)平成24年2月」より

室内の軽微な修繕

入居した時からついている部屋の中の蛍光灯が切れた。自分で取り替えるのか。
借主は原則として修繕義務を負わず、貸主に通知する義務があります。ただし、契約内容により、小規模な修繕は貸主に通知することなく、借主の負担で行うことができます。

■解説
賃貸借契約に「電球・蛍光灯・ヒューズの取り替えは借主が行う」旨が入っている場合には、貸主に連絡することなく、自分の負担で取り替えることができます。

参考資料)賃貸借トラブルに係る相談対応研究会「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集(改訂版)平成24年2月」より

貸主の修繕への対応

シャワーのホースが破損した。大家に修繕を依頼しているが、いっこうに直してもらえない。不便なので早く直して欲しいのだが、自分で勝手に直して良いか。
原則として貸主の承諾が必要です。

■解説
修繕の必要がある場合、原則として、貸主に通知する義務があります(民法615条)。場合によっては依頼内容を書面で通知したり、自ら修繕する意思がある場合にはその旨を伝えた上で同意を得たりする等の方法で自らの意思を貸主に示すことが有効である場合もあります。
なお、契約上、軽微な修繕について、借主が行う旨がある場合は、借主の負担にて修繕することができます。

参考資料)賃貸借トラブルに係る相談対応研究会「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集(改訂版)平成24年2月」より

競売による建物の所有者の変更が借主の権利・義務に与える影響(原則)

入居中に競売により建物の所有者が変更になった場合、引き継がれる借主の権利及び義務はなにか。
入居中に競売により所有者が変更になった場合に引き継がれる権利の有無は、借主の入居時期により異なります。

■解説
競売により貸主が変更になった場合は、抵当権設定・競売手続開始と入居の時期の関係により、以下のとおり権利関係が異なります。これは入居時点で、抵当権の設定が登記されていた建物を賃借した場合について、短期賃貸借を廃止する法律が平成15年に成立し、平成16年4月1日から施行されていることによるものです。

(1)平成16年4月1日以降に入居した場合
1)抵当権設定前に入居した場合には、売買の場合と同様、変更前の所有者の賃貸借契約に伴う権利及び義務が引き継がれます。
2)抵当権設定後に入居した場合には、原則として、変更前の所有者の賃貸借契約に伴う権利及び義務が引き継がれません。
2-1)競売手続開始前に入居した場合のうち、
2-1-1)賃借権設定登記がなく、または賃借権設定登記前に設定された抵当権者全員の同意の登記がなければ(民法387条1項)、競落後6ヶ月は借主の居住が認められますが(民法395条1項1号)、6ヶ月後には退去することになります。
2-1-2)賃借権設定登記があり、かつ賃借権設定登記前に設定された抵当権者全員の同意の登記があれば、売買の場合と同様、変更前の所有者の賃貸借契約に伴う権利及び義務が引き継がれます(民法387条1項)。
2-2)競売手続開始後に入居した場合には、競落後、借主は直ちに退去することになります。

(2)平成16年3月31日までに入居した場合
1)抵当権設定前に入居した場合には、売買の場合と同様、変更前の所有者の賃貸借契約に伴う権利及び義務が引き継がれます。
2)抵当権設定後に入居した場合には、原則として、変更前の所有者の賃貸借契約に伴う権利及び義務が引き継がれません。
2-1)賃貸借契約の期間が3年以内の場合、賃貸借契約期間の終了までは変更前の所有者の賃貸借契約に伴う権利及び義務が引き継がれます。
2-2)賃貸借契約期間が3年を超える場合、競落後、借主は直ちに退去することになります。

参考資料)賃貸借トラブルに係る相談対応研究会「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集(改訂版)平成24年2月」より

知らぬ間に保証人とされていた

突然、不動産業者から連絡があり、保証人として、兄の未納分の家賃8ヶ月分を支払うようにいわれた。どうやら、兄が勝手に私を連帯保証人とし、賃貸契約を結んでいたようである。その後、兄が行方不明となったため、不動産業者は保証人の私に連絡したとのことであった。兄とはもう5年も会っておらず、また、現在も連絡がとれない。支払う必要があるか。
この時点では支払う必要はないと考えられます。

■解説
まずは、不動産業者に自分は知らなかった旨を伝え、契約がどのような状況で成立したのか(連帯保証人の印鑑を持っていたのか、委任状をもっていたのか、等)を尋ね、状況を確認すると良いと考えられます。その上で、表見代理の成立が疑われる場合には、弁護士等の専門家やADR機関等法律の専門機関に相談した方が良いと考えられます。

参考資料)賃貸借トラブルに係る相談対応研究会「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集(改訂版)平成24年2月」より

失火人に対する損害賠償請求

賃貸アパートに住んでいたが隣人の過失で失火、類焼し自分の部屋の家財の多くも消失してしまいました。自分の受けた損害について隣人に損害賠償を求めることができますか?
重大な過失を除き、不法行為責任の一般原則を規定した民法第709条の規定は、失火の場合には適用されません。従って、失火人に対し損害賠償の請求はできません。
また失火人である隣人の加入する火災保険はおそらく借家人賠償責任補償特約付き契約と想定されます。この特約は失火による賃借人としての大家に対する補償を負うものであり、残念ながらあなたの損害を補償するものではありません。
なお隣人の加入している火災保険に失火見舞い費用特約が付加されている場合のみ、被災一世帯あたりに所定のお見舞金が支払われますが、その支払い額には限度があり、損害を補うには至りません。
あなたが加入している火災保険に家財保険特約を付加している場合には、そこから補填されます。
住める状況にない場合は、一般的に賃貸借契約の終了となり賃貸人からは敷金が返還されます。※民法第709条(不法行為による侵害賠償)故意または過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。※明治三十二年法律第四十号「失火ノ責任ニ関スル法律」原則として失火人に対して損害賠償責任を問えない。だたし、失火人に重大な過失がある場合は除く。

駐車場付き建物賃貸借の解約について

アパートの部屋と敷地内駐車場の賃貸借契約書が一つになっており、月額賃料には駐車場料金を含むという記載の契約となっています。賃貸人としてはどうしてもその駐車場が必要なので解約を申し入れたいと思っているが可能でしょうか?
駐車場付きの建物賃貸借契約と思われます。賃料も駐車場料金を含む金額で契約書に記載されていることから、一体として借地借家法の適用を受けると考えることが妥当かと思われます。従って、賃貸人都合で一方的な駐車場のみの解約はできません。もちろん賃借人が合意すれば解約も可能でしょうが、この場合でも駐車場解約後の部屋の賃貸料を提示し交渉する必要がありますし、契約変更手続きも必要になります。

賃貸住宅を借りる際の費用について

賃貸住宅を借りることになりました。仲介業者から、敷金、礼金、更新料について説明がありましたが、どういうことでしょうか。
敷金については民法622条の2に規定されていますが、賃貸借契約の締結に際して、賃借人が賃貸人に債務の担保として差し入れるもので、賃借人が退去したときなどにおいて、賃借人の債務、つまり家賃滞納や住宅の原状回復費用に充当されるというものです。また、賃貸人は、賃借人に対して充当後の残額を返還する義務があります。なお、賃借人からは、賃貸人に対して上記債務について敷金を充当することを請求することはできません。
ただし、地域によっては敷引といって、敷金を償却する、つまり賃借人に返還しないことが契約書に特約として規定されている場合があります。礼金とは、賃借人から賃貸人や管理会社へ賃貸借契約のお礼として支払うお金のことで、お礼とは言いつつも初期費用に含まれており、基本的に戻ってくることはありません。更新料とは、賃貸借契約が満了した際に、その契約を更新する際に賃借人から賃貸人に支払われるお金をいいますが、民法には更新料についての規定はありません。通常、賃貸借契約には期間の定めがあって、その期間が満了すると契約が終了します。しかし、期間満了後も賃借人が引き続き物件の使用を継続し、賃貸人が正当な理由をもって異議を述べない限り、従前と同様の条件で賃貸借契約が更新されたものとみなされます。これを法定更新といい、つまり、賃貸人から異議がなければ契約は継続することになります。

そのほか、特に明確に定められた敷引金や一義的かつ具体的に記載されている更新料については、高額過ぎる(賃料月額の概ね3.5倍を超える程度)ものでないかぎり、無効とはされないようです。

設備の故障による家賃減額などの請求について

築20年経過の集合住宅に入居しています。給湯器が故障したので、管理会社に連絡したところ、機器や業者の手配などで修繕完了までに15日程度を要する、という回答でした。こうした場合には、家賃の減額を請求できる、と聞いたのですが。
民法606条「賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。」と規定されています。このため、本件の場合、賃貸人が給湯器の修繕することになります。しかし、製品不足の影響や工事業者の手配をする必要があるため、修繕完了までにはある程度の期間が必要となります。
給湯器の故障ということですと、風呂が使えないという状況が生じます。このことは一般的に受忍限度を超えている、と考えられますので、賃貸人は、賃借人に対し、その代替手段として銭湯代を支給する、あるいは家賃減額(免責期間があるので、故障から修繕完了日までの全期間ではありません。)するといった内容を提案するなど、賃貸人と賃借人で協議をしていくことになります。(民法611条)上記以外にも、エアコン、インターネット環境、トイレといった契約書に設備とされたものについても、同様に修繕完了までの期間は住宅の一部が使用収益できない場合とみなされ、代替手段の提供や家賃減額の対象になります。なお、上記のような設備が故障した場合は、管理会社かオーナーに直ぐに連絡することが重要です。これを怠った場合は、善良なる管理者の注意義務違反を問われることもあります。
こうした事案に関しては、公益財団法人日本賃貸住宅管理協会から「貸室・設備等の不具合による賃料減額ガイドライン」が作成されていますので、話し合いの参考にしてはどうでしょうか。

クロスの張り替えの金額請求について

2年間入居した賃貸物件をこの度退去しました。退去立会い時には何も言われませんでした。この度、原状回復費用の請求が届きびっくりしました。タバコも吸わず丁寧に使っていたのですがクロスの全面張り替えの金額が請求されているからです。納得できる内容ではありません。請求された金額を支払わなければいけないのでしょうか。
契約書に退去時の原状回復費用についての特約の記載がある場合は、それに従うことになると思います。
契約書に記載されていない項目の請求であれば、国土交通省が定めたガイドラインに従って話し合ってください。
ガイドラインでは、賃借人の故意・過失によるクロスの損耗等は賃借人負担となりますが、経年劣化・自然損耗等は賃貸人負担としてます。
なお、クロスについては6年間で残価が1円とすることも記載されていますので交渉や話し合いの際の材料にもなるでしょう。

駐車場料金の一方的な値上げ

月極め駐車場を借りていますが、オーナーより「次回更新より値上げする」と一方的に通告されました。従わなければならないのでしょうか?賃借人を保護する借地借家法の適用は受けないのですか?
借地借家法は、建物の所有を目的とする土地の賃貸借、建物の賃貸借に適用されます。借地と言えるためには建物の所有を目的とするものであることが必要となります。従って、お問い合わせの月極め駐車場の契約は借地借家法の適用の範囲外となります。同じように資材置き場・ゴルフ練習場等にも適用されません。オーナー側にしてみれば、契約自由の原則(民法第521条)によりどのような契約内容を提案するのも自由です。折衝の上どうしても受け入れられないのであれば別の駐車場を探すしかありません。
【借地借家法第1条】この法律は、建物の所有を目的とする地上権及ぶ土地の賃借権の存続期間、効力等並びにに建物の賃貸借の契約の更新、効力等に関し特別の定めをするとともに、借地条件の変更等の裁判手続きに関し必要な事項を定めるものとする。
【借地借家法第2条1号】借地権 建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権をいう。

人の死の告知

賃貸住宅を契約し入居しましたが、入居後、「数か月前に居住者が救急車で運ばれ病死したこと」を近所の方から教わりました。これは心理的瑕疵として契約前に宅地建物取引業者からの告知が必要なのではありませんか?
本事案の場合は、一般的な自然死であるので心理的瑕疵には該当しないと考えられます。従って告げなくてもよい場合に該当するものと思われます。
不動産取引において、人の死が心理的瑕疵(いわゆる事故物件)に該当するかどうかは、事案の態様・周知性等や該当する物件の立地等によって個々に異なり、社会や時代の変化とともに変遷する可能性もあります。令和3年10月に出された「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」では次のように記載されています。
【原則として告げなくてもよい場合】
① 自然死(老衰・病死・転倒等による不慮の事故死)
② ①以外の死の発生(自殺・殺人による死)または特殊清掃が行われることとなった①の死で、発覚後概ね3年経過した場合(但し、事件性・周知性・社会的に与えた影響等が特に高い場合はこの限りではありません。)
③賃貸借取引及び売買取引の対象不動産の隣接住戸、または借主または買主が日常生活において通常使用しない集合住宅の共用部分で、①以外の死が発生した場合または①の死が発生して特殊清掃等が行われた場合
【告げなければならない場合】
前述①~③のケース以外において、死因や事案の経過期間に関わらず、買主・借主から事案の有無を問われた場合や買主・売主の判断に重要な影響を及ぼすと考えられる場合、宅地建物業者は調査を通じて判明した点を買主・借主に告げなければならないとされております。
なお宅地建物業者は、人の死に関する事案が生じたことを疑わせる特段の事情がなければ、人の死に関する事案が発生したか否かを自発的に調査すべき義務まで認められてはいません。調査先の売主・貸主等から不明であると回答された場合、無回答の場合にはその旨を告げればよいこととなっています。

遺失損害と極度額

知り合いのアパート賃貸借契約(令和4年5月契約)の連帯保証人になっていたところ、その知り合いが自殺し特殊清掃も行われました。連帯保証契約書には極度額が設定されていますが、賃貸人からは自殺に伴う損害は遺失利益として極度額の中に含まれる債務だと伝えられました。私は極度額の範囲内であれば、遺失損害も支払わなければいけないのでしょうか?
令和2年4月1日に施行された改正民法第465条の2において、個人の根保証については極度額を限度として責任を負うこと、また極度額の定めのない保証契約は無効となることが規定されています。これらの規定は住宅の賃貸借契約に基づく賃借料や損害賠償債務等保証する連帯保証人にも適用されることになりました。したがって自殺に伴う居室の損害については、善管注意義務違反を理由に借主が損害賠償を負う可能性があります。この場合には、その損害賠償債務は主債務の元本に含まれる可能性があります。

民法第465条の2 一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約(以下根保証契約という)であって、保証人が法人でないもの(以下「個人根保証契約」という。)の保証人は、主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たるすべてのもの及び保証債務について約定された違約金又は損害賠償の額について、その全部にかかる極度額を限度として、その履行をする責任を負う。
2 個人根保証契約は、前項に規定する極度額を定めなければ、その効力を生じない。
3 第四百四十六条第二項及び第三項の規定は、個人根保証契約における第一項に規定する極度額の定めについて重用する。

賃借人の火災保険加入

良い物件があったのでアパートの賃貸借契約を結ぼうと仲介不動産会社の説明を受けたところ、賃貸人の意向で「入居される方には借家人賠償責任特約付の火災総合保険に加入してもらっている」と言われました。加入が契約の条件でのようですが自分としては出費を抑えたいので加入したくありません。保険加入は消費者の利益を一方的に害するものとして消費者契約法に抵触しませんか?
保険加入を強制していることにはなると思われますが、強制と言っても賃貸借契約上の条件であり、求められている保険契約の内容が賃借人にとって不当でなければ消費者契約法第10条等の法令等には抵触しないものと考えられます。どうしても納得いかないのであれば当物件を借りなければ良いということです。
さらに賃貸部分(専有部分)からの失火によりアパート本体に火災が及んだ場合には、失火法があるからといっても賃借人は賃貸借契約上善管注意義務違反により損害の賠償責任を免れることはできないので、保険加入には相応の意味があると理解した方が良いでしょう。
【消費者契約法第10条】 消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費契約の申し込みまたはその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限しまたは消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

法定更新と連帯保証契約

私は民法改正前の賃貸借契約の連帯保証人となっております。この度の更新で賃貸人と賃借人の間で合意更新できずに法定更新になってしまったそうです。改正民法では極度額の設定が不可欠ですが、私の場合はこの適用を受けないのでしょうか?
借地借家法でいう法定更新では、賃貸人と賃借人が新たな合意をしたわけではありません。令和2年4月1日の改正民法施行日以降に法定更新となった場合は、改正後の規定は適用されず、改正前の規定が適用される状態が継続されることになります。なお法定更新された場合、連帯保証人は新たに保証契約をしているわけではないので連帯保証契約も改正前の規定が適用された状態が継続します。

換気扇の修繕について

賃貸住宅の換気扇が動かなくなり、オーナーに修繕をお願いしました。善管注意義務違反の為、賃借人負担と言われました。通常の使用をしていましたが、何年も清掃はしていません。私の費用負担になりますか。
また、善管注意義務とはなんですか。
換気扇を掃除をしながら使用し、契約書に何ら規定がなければ賃貸人負担ですが、何年も清掃していないで油汚れやススが故障の原因の場合は、善管注意義務違反を問われ賃借人負担になると思います。
善管注意義務とは、民法第400条の「善良なる管理者の注意義務」のことです。
入居者の管理が不十分であった為に起こった劣化や損傷などが善管注意義務違反になります。
【民法第400条】債権の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、その引渡しをするまで、契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない。

契約更新について

一般賃貸借契約で賃貸マンションに住み、間もなく更新を迎えます。更新に当たって更新料(家賃1か月分)と更新事務手数料(家賃0.5か月分)が必要と言われております。契約時には礼金だの敷金だのを払い、月々の家賃もしっかり払っているのに、更新時には更新料や更新事務手数料を払えなんて、どうしても納得いきません。法的な根拠でもあるのですか?
更新料や更新事務手数料については、そもそも民法や借地借家法に規定は設けられておらず法的根拠はありません。更新料とは土地・建物の賃貸借契約が更新される際に更新の対価としてオーナーに支払われる一時金のことを示し、その更新手続きに対する労務報酬として事務手数料が不動産会社や管理会社に支払われるようになっているようです。これらは不動産業界の昔からの慣習です。ただ、契約の際には契約書面に更新料・更新事務手数料に関する条項があり、説明を受けたうえで合意しているはずです。更新料については消費者契約法第10条に定める「消費者の利益を一方的に害する」規定が争われた最高裁平成23年7月15日の判決では、「契約の当事者が、更新料について支払う旨の明確な合意をし、その合意の内容、特に借主が貸主に支払う更新料の額が具体的な取引において、客観的に見て暴利的でないなどの合理性があれば、消費者契約法第10条の規定に反しない」としております。従って更新料の家賃1か月分は高額とは言えず、消費者契約法第10条の規定に反せず有効と考えられます。更新事務手数料(家賃の0.5か月分)についても同様です。なお、支払わずに放置しておくと遅延侵害金が発生することもあり得ますので、契約に則り支払うべきでしょう。なお契約書に更新事務手数料についての記載がない、もしくは不明確な定めといえれば、支払いを拒否する事はできます。

■消費者契約法第10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限しまたは消費者の義務を荷重する消費者契約の条項であって、民法第1条2項に規定する基本原則の反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

サブリース契約、マスターリース契約とは

賃貸借契約でサブリース契約とかマスターリース契約という言葉を耳にしますが、一体何のことですか?
実務上サブリース契約とマスターリース契約という言葉がごちゃ混ぜに使われているようですが、正式には両者の意味は違います。
 まず、マスターリース契約とは賃貸物件のオーナーとサブリース会社(不動産会社・管理会社)との間で一括借り上げ契約(原賃貸借契約)を結ぶことを意味します。
 また、サブリース契約とはマスターリース契約を締結したサブリース会社が、その物件を個々の入居者と結ぶ転貸借契約を意味します。
 マスターリース契約はサブリース契約を前提としており、どちらか片方だけでは成り立たないため、この一連の流れをまとめて「サブリース」と呼ばれているようです。

 マスターリース契約には主に「家賃固定型」と「実績連動型」という種類があります。
 「家賃固定型」は転貸するサブリース物件の空室率に関わらず一定額の賃料がサブリース会社からオーナーに支払わるタイプで、オーナーにすれば空室リスクへの担保がなされるため安定した収入が見込めるメリットがありますが、物件価値が向上して家賃が上がってもオーナーの収入は変わりません。

 一方「実績連動型」はサブリース会社がオーナーへの支払額を空室状況に応じて変動させるタイプです。物件価値が向上して家賃が上がればオーナーの収入も上がりますが、空室リスクを背負うことになります。

 主にマスターリースの説明になりましたが、賃貸物件のオーナーにしてみれば不動産経営にかかわる業務を委託しながら家賃収益を得るというメリットもありますが、賃貸借契約につきものの敷金や礼金は受け取れません。建物も修繕費はオーナー負担ですし、マスター契約内容の見直しもあったり、賃料支払の減額を申し受けることもあります。またサブリース会社から解約を求められることはあっても、オーナーからの解約はできません。
マスターリース契約も賃貸借契約ですから、民法第618条や借地借家法第28条に従わなければなりません。

■民法618条
「期間を定めている賃貸借の場合、契約で当事者に解約をする権利を認めていなければ、契約期間中に解約を申し入れることはできないとされています」

■借地借家法28条
「貸主からの解約の申入れには正当の事由があると認められる場合に限ってすることができる。」とされています。
この正当事由の有無は、
〇貸主と借主とが建物の使用を必要とする事情
〇建物の賃貸借に関する従前の経過
〇建物の利用状況や現況
〇これらを補充する要素としての財産上の給付の申出(いわゆる立退料の提供)
などが総合的に判断されるところです。

■借地借家法30条
「このような正当事由を要することなく貸主から解約の申入れをすることができるといった特約は無効」とされます。
したがって、貸主から特定賃貸借契約を一方的に解約しようとする場合には、契約で貸主から解約する権利が認められていること、正当事由があることの2つの要件を満たす必要があります。 仮に契約で「いつでも解約できる」などと定められていたとしても、これは上記の2つの要件のうちの前者を満たしているに過ぎませんので、 争いとなったときは後者の要件である正当事由を満たしているかが問われることに注意が必要です。