相談事例集
民間賃貸住宅関係
仲介手数料
- 不動産仲介会社の仲介により賃貸借契約を締結した場合、仲介手数料を支払う義務はあるか。
- 賃貸借契約が成立した場合には、貸主・借主の双方あるいは一方から、不動産仲介会社に対して成功報酬として仲介手数料を支払う必要があります。
■解説
(1)意義
「仲介手数料」とは、不動産仲介会社を通して物件の賃貸借契約を締結した場合に、契約を仲介した不動産仲介会社に支払う手数料(報酬)のことです。(2)支払義務
不動産の賃貸借の仲介では、賃貸借契約が成立したときに不動産仲介会社の仲介手数料の請求権が発生するので(いわゆる「成功報酬」。一般媒介契約約款8条、商法550条参照)、賃貸借契約が成立した場合には、契約当事者(貸主・借主双方)は仲介手数料を支払う必要があります。(3)金額の妥当性
仲介手数料の額については、宅地建物取引業法(以下、「宅建業法」という)46条1項を受けた国土交通大臣の告示が上限を定めています。
居住用建物の賃貸借契約の媒介の場合、不動産仲介会社は貸主・借主の双方からそれぞれ賃料の0.55ヶ月分以内の報酬を受けることができます。ただし、依頼者の承諾がある場合には、貸主・借主のいずれか一方から賃料の1.1ヶ月分以内を受領することができます(この場合も仲介手数料の合計額は賃料の1.1ヶ月分を超えることができません)。
例えば、貸主・借主双方が折半して0.55ヶ月分ずつ負担することもありますし、貸主・借主が合意すれば、借主が賃料の1ヶ月分、貸主が賃料の0.1ヶ月分の仲介手数料を支払うことも可能です。参考資料)賃貸借トラブルに係る相談対応研究会「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集(改訂版)平成24年2月」より
家賃支払方法の指定
- 賃貸借契約締結に当たって、家賃の支払方法を指定された。従う義務はあるか。
- 賃貸借契約はあくまでも貸主と借主の合意が原則となります。契約条件となっている場合、当該物件の賃貸借契約を締結するためには、その家賃の支払方法に従わなければならないと考えられます。
■解説
家賃の支払方法は、賃貸借契約の履行方法についての当事者の合意となり、契約自由の原則によって、債務の履行方法に関する合意も有効であると考えられます。
したがって、現金持参、口座振込みといった家賃の支払方法に関して合意をしている場合は、当該方法に拘束されます。参考資料)賃貸借トラブルに係る相談対応研究会「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集(改訂版)平成24年2月」より
連帯保証人を立てた上での保証会社との契約
- 気に入った物件で契約しようとしたら、連帯保証人を立て、さらに保証会社と契約しなくてはならないといわれた。従う必要はあるか。
- 賃貸借契約はあくまでも貸主と借主の合意が原則となります。契約条件として示されている場合、当該物件を賃貸借契約するためには、保証会社と契約する必要があると考えられます。
■解説
貸主がリスク低減のため、連帯保証人がいる場合でも保証会社の保証を条件とする賃貸物件もあるようです。参考資料)賃貸借トラブルに係る相談対応研究会「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集(改訂版)平成24年2月」より
保険への加入義務
- 賃貸借契約の締結に当たって、保険への加入義務はあるか。
- 保険の加入が契約条件となっている場合には加入する必要があると考えられます。
■解説
法令によって強制されているものではありませんが、契約条件として保険への加入が義務づけられている場合、原則としてこれを受け入れることを前提に契約を締結することになります。
多くの場合、加入が義務づけられているのは、住宅総合保険であり、貸主の所有物である建物のほか、借主の所有物である家財に対しても補償されることが多いと考えられます。また、火災や水害の場合の補償だけでなく、借主が自らの瑕疵で水漏れ事故をおこしてしまった場合の補償や、その事故によって隣人や貸主に損害を与えた場合の損害賠償補償等が含まれることも多いです。保険の内容を良く理解し、加入すると良いと考えられます。参考資料)賃貸借トラブルに係る相談対応研究会「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集(改訂版)平成24年2月」より
申し込み後のキャンセル
- 息子の大学入学のため、賃貸住宅を借りようと、申込書に記入し、「申込金」として、1万円を支払った。しかし、その後、地元の大学に合格したため、キャンセルしたいができるか。
- キャンセルできます。また、契約成立前に不動産業者から要求されて支払った申込金は、預かり金として返還を請求することができます。
■解説
賃貸借契約を申し込む際、不動産業者から、申込金あるいは頭金・預かり金・手付金等の名目で金員の支払いを要求される場合があります。
その場合、契約成立前に支払われた当該金員は、預かり金とみなされ、入居希望者がキャンセルする場合、不動産業者は預かり金を返還しなければなりません(宅建業法47条の2第3項、国土交通省令及び同法施行規則16条の12第2号)。参考資料)賃貸借トラブルに係る相談対応研究会「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集(改訂版)平成24年2月」より
合意のない契約内容変更
- ペットを飼いたかったので、ペット禁止でない物件を探し住んでいた。今回、更新となり、送られてきた新しい契約書をみたら、突然ペット禁止特約が追加されていた。住み続けることはできないか。
- 合意による更新は基本的には貸主と借主の合意の上となります。特約の追加について、説明を求め、良く話し合うことが大切であると考えられます。
なお、法定更新は、賃貸期間を除き、従前の契約条件によることになりますが、生活上のルールのことは良く話し合うことが大切です。■解説
貸主から、契約条件変更の通知があり、借主がこれに応じるか、明確に拒絶しなかった場合には、提示された条件で賃貸借が更新されます。
更新は、貸主、借主の合意が原則となりますので、条件に応じたくない場合は、貸主と良く話し合う必要があります。
本件の場合、ペットの飼い方等で貸主や近隣住民等に迷惑をかけていないか等、良く事情を話し合い、今後の対応について相談することが大切であると考えられます。参考資料)賃貸借トラブルに係る相談対応研究会「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集(改訂版)平成24年2月」より
適正賃料
- 賃貸マンションの適正家賃というのはあるのか。
- 賃貸借契約の賃料は当事者間の合意によって決定されるもので、法令上上限金額が定められている訳ではありません。
■解説
賃料は、当事者間の合意によって決定されるものであり、法定上の上限や標準賃料のような定めが存在する訳ではありません。
賃貸住宅の家賃は、一般的に、立地、部屋の広さ、間取り、設備、建築物の構造、日照・通風等の条件等によって決められていると考えられます。必要に応じて他の類似物件と比較する等して、当該物件における条件と賃料について納得して契約することが大切であると考えられます。参考資料)賃貸借トラブルに係る相談対応研究会「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集(改訂版)平成24年2月」より
家賃滞納の場合の支払猶予
- 家賃を滞納しているが、どのくらい支払いを猶予してもらえるか。
- 家賃の滞納は契約に違反する行為であり、家賃滞納により借主との信頼関係が破壊されたといえる場合には、賃貸借契約が解除され明渡し請求を受ける場合があります。どの位の期間滞納したら信頼関係が破壊されるのかという点については、個別事情によりますので、一概にいえません。
■解説
信頼関係が破壊されたか否かは、賃料不払いの程度、賃料不払いに至る事情、過去の賃料支払状況、解除の意思表示後の借主の対応等を総合的に考慮して判断がなされています。
賃料不払いという債務不履行による解除のためには、債務不履行解除の一般原則を定めた民法541条が要求する、①相当の期間を定めた催告、②借主がその期間内に賃料の支払をしないこと、③解除の意思表示が必要です。
ただし、判例は、賃貸借契約が長期間継続する契約類型であることから、④貸主と借主の信頼関係を破壊すると認めるに足りない特段の事情があることを借主が立証した場合には解除を認めないという、いわゆる「信頼関係破壊の法理」といわれる判例理論を確立させ、解除要件を厳格化しています。
一方で、当事者の一方が相互の信頼関係を裏切って賃貸借の継続を著しく困難にするような背信行為があった場合には、催告なしに契約解除できるとして解除要件を緩和しています。参考資料)賃貸借トラブルに係る相談対応研究会「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集(改訂版)平成24年2月」より
家賃滞納の場合の分割払いの可否
- 既に滞納した家賃について、分割払いに応じてもらうことはできるか。
- 貸主に分割払いに応じる法律上の義務がある訳ではありません。貸主と相談することが大切であると考えられます。
■解説
本来は契約に定められた通り賃料を支払う必要があります。貸主に、滞納となった事情、支払う意思があり、分割払いであれば支払えることや(支払再開の見込みがあれば)支払再開の見込み等を説明し、十分に相談し、理解を得ることが大切であると考えられます。参考資料)賃貸借トラブルに係る相談対応研究会「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集(改訂版)平成24年2月」より
支払済み家賃の未納請求
- 家賃の支払いを滞った覚えはないのに、家賃の滞納請求がきた。どうすれば良いか。
- まず、家賃の支払先(例えば振込先)が契約上の支払先と一致しているか、貸主や管理会社の変更によって家賃の支払先に変更が生じていないか等、適切な支払先であることを確認しましょう。
貸主の指定する支払先に家賃を支払ったのであれば、既に支払った家賃の支払義務はありません。貸主に対し、例えば振込であれば振込依頼書、現金で支払った場合には当該現金を口座から出金した記録等を示し、何時どのように支払ったかを説明しましょう。
適切な支払先に支払っていなかった場合等、当事者間でどうしても話し合いがつかない場合には、ADR機関や調停手続等の紛争解決の専門機関に相談してみましょう。■解説
家賃を適切に支払っているのであれば、既に支払った家賃の支払義務はありません。
一方、貸主や貸主の指定する管理会社等の支払先に支払われていない場合(受領権限のない第三者等に支払ってしまっている場合)には、当該支払いは無効となる可能性もあります。
仮に契約上の支払先と異なる相手に支払いを行っていた場合であっても、全くの第三者ではなく経済的に一体と考えられる相手に対する支払いである場合や、支払先を誤ってしまうような蓋然性の高い場合(例えば民法478条の準占有者に対する弁済に該当する場合、表見代理が成立する場合等)には弁済の有効性を主張できることもあります。この場合には、まず事実関係をしっかりと把握することが重要です。参考資料)賃貸借トラブルに係る相談対応研究会「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集(改訂版)平成24年2月」より
支払済み家賃の未納請求
- 支払いを滞った覚えはないのに、大家からなんども滞納の督促をされた。よくわからなかったので、放置していたら、大家から家賃支払請求訴訟を提起されてしまった。領収証は捨ててしまっていた。どうすれば良いか。
- 既に支払請求訴訟を受けてしまったのであれば、弁護士等の専門家に相談することが必要になると考えられます。訴状が送付されている場合、第1回の裁判期日に答弁書も提出せずに欠席すると、原告の訴えを認めたものとみなされ敗訴となりますので、身に覚えがないとしても訴訟には対応することが必要です。
■解説
訴状が送付されている場合には、よくわからない内容であったとしても放置していると、貸主の主張が裁判によって全面的に認められる可能性もあります。また、支払いを滞らせていないのであれば、例えば振込明細、預貯金通帳等、支払いをしたことが客観的に分かるものを準備して、弁護士等の専門家に相談してください。参考資料)賃貸借トラブルに係る相談対応研究会「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集(改訂版)平成24年2月」より
追い出し行為
- 家賃を滞納していたら、居住妨害をしてきた。どうすれば良いか。
- 借主が任意に退去しない場合であっても、貸主等が私的な明渡し強行行為に及ぶことは自力救済として禁止されており、違法行為です。
■解説
追い出し行為の違法性については、家賃滞納による賃貸借契約解除前と後に分けて考えることができます。(1)賃貸借契約存続中
賃貸借契約存続中、貸主は借主に賃貸物件を使用収益させる義務を負っています(民法601条)。貸主は契約を解除するまでは、借主に退去・明渡しを求めることはできません。貸主が追い出し行為に及ぶことは、使用収益させる債務の不履行として損害賠償請求(民法415条)が可能です。(2)賃貸借契約解除後
家賃を滞納し、それが貸主・借主間の信頼関係を破壊するに至った場合には、貸主は契約を解除(民法541条)することができます。契約が解除された場合、借主には賃貸物件を適法に使用収益する権利はなくなりますから、借主は貸主に対して建物を明け渡す必要があります。
もっとも、貸主が借主に対し適法に建物明渡しを求めたにもかかわらず、借主が任意に明け渡さない場合であっても、裁判所の強制執行等の手続きによって明渡しを実現する必要があり、自らの実力を持って権利の実現を図ることは許されず、違法となります(自力救済の禁止)。実際、裁判例においても、明渡し目的の自力救済者の行為の違法性が認定される場合がほとんどのようです。
そこで、追い出し目的で居住妨害行為に及んだ者について、借主に対する不法行為(民法709条)が成立し、借主は損害賠償請求をすることができます。参考資料)賃貸借トラブルに係る相談対応研究会「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集(改訂版)平成24年2月」より
鍵の付け替え
- 家賃を滞納していたら、突然、無断で鍵が付け替えられており、自分の部屋から閉め出された。どうすれば良いか。
- 鍵を付け替えて居室から閉め出す行為は、借主の賃貸物件を占有使用する権利を侵害する行為に当たり、自力救済行為として違法となります。
■解説
(1)原則
賃貸借契約が継続中は、借主に使用収益の権利がありますから、貸主は借主を締め出すことはできません。
問題は、家賃滞納等により賃貸借契約が解除され、借主が使用する権利を失った後ですが、借主の占有権自体はあるものと考えられますので、裁判所の強制執行等の手続きによって明渡しを実現する必要があり、借主の占有権を排除しようとする行為は、自力救済として違法となると解されています。(2)借主が同意承諾を与えていた場合
借主が事前に鍵の付け替え等について、特約によって同意を与えていた場合(例えば賃貸借契約書中に予め包括的に借主から物件の開錠をする権限を授与する条項が入っていた場合等)、そのような特約の有効性が問題となります。
このような条項は、どのような場合に権利を付与するかの定めにもよりますが、法の禁止する自力救済を許容する合意であり、違法とされる可能性があるほか、消費者契約法10条により無効とされる可能性も考えられます。そのため、このような条項があっても、貸主による実力行使は、民事上の不法行為に該当する可能性があると考えられます。参考資料)賃貸借トラブルに係る相談対応研究会「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集(改訂版)平成24年2月」より
荷物の運び出し
- 家賃を滞納していたら、留守中に荷物を全て運び出されてしまった。どうすれば良いか。
- 原則として、借主の荷物は借主の所有物ですから、貸主が勝手に処分することはできないと考えられます。
■解説
(1)原則
明渡し後であっても、借主が残置した家具・調度品等の所有権は借主に属するので、貸主がこれを勝手に処分した場合は、民事上(損害賠償請求)、刑事上(窃盗罪、器物損壊罪等)の責任が生じます。(2)残置品の処置の定めがある場合
借主の明渡しが完了しない場合に、物件内の動産の搬出や処分をする権限を付与する条項や、借主が物件内の動産の所有権を放棄する条項がある場合であっても、借主の意思に反して物件内に立ち入って動産を搬出・処分等することは、住居侵入罪等に当たる可能性や、民事上も不法行為に該当する可能性があると考えられます。参考資料)賃貸借トラブルに係る相談対応研究会「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集(改訂版)平成24年2月」より
共益費
- 共益費とはどのようなものか。支払義務はあるか。
- 共益費とは、賃貸物件の共用部分(外灯、エレベーター、共有廊下、ごみ集積所等)の維持・管理のために支払う費用のことをいいます。契約条件に示され、合意している場合、支払わなければならないと考えられます。
■解説
賃貸借契約では、賃料のほかに毎月定額の共益費の支払いを明記したり、はじめから共益費込みで賃料を設定したりする等して、徴収されています。<参考>
(共益費)
第5条 乙は、階段、廊下等の共用部分の維持管理に必要な光熱費、上下水道使用料、清掃費等(以下この条において「維持管理費」という。)に充てるため、共益費を甲に支払うものとする。
2 前項の共益費は、頭書(3)の記載に従い、支払わなければならない。
3 1か月に満たない期間の共益費は、1か月を30日として日割計算した額とする。
4 甲及び乙は、維持管理費の増減により共益費が不相当となったときは、協議の上、共益費を改定することができる。
資料)国土交通省「賃貸住宅標準契約書」参考資料)賃貸借トラブルに係る相談対応研究会「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集(改訂版)平成24年2月」より
光熱費
- 賃貸アパートのプロパンガス契約を大家がまとめて契約している。別の会社との契約にしたいが、要求できるか。
- 貸主が一括してプロパンガス契約を締結していることを知って借主は契約を締結したのであれば、借主に変更を請求する権利までは認められないと考えられます。
■解説
基本的には貸主は、借主からの契約会社の変更の申入れに対して、応じる義務はないといえます。別の会社の料金の方が安い等の事情がある場合には、そのことを示す資料等を用意して、貸主に相談してみましょう。参考資料)賃貸借トラブルに係る相談対応研究会「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集(改訂版)平成24年2月」より
水道費
- 貸主が一括して水道契約をしており、貸主から料金の請求が来るが、水道メーターに基づいて支払う額に、貸主の手数料分上乗せして請求されている。支払義務はあるか。
- 賃貸借契約の内容によります。仮に貸主が水道料金の請求等の事務手続きの手数料として料金を加算することを予め説明し、そのような契約書に借主が署名・押印して合意した場合には、料金の支払義務が生じます。
■解説
水道料金の負荷徴収方法も含めて賃貸借契約で決定されている場合には、当該契約に従う必要があります。手数料として不相当に高額であるとか、メーターで戸別に金額を把握できるのにそれをしない等、貸主の設定した金額が不当と思われる事情があれば、貸主と交渉するか、調停等で条件を話し合うことは考えられるかもしれません。
なお、水道料金については、貸主がアパート全体につき一括して契約を締結する「共同住宅扱い」という契約方法が存在します。この場合、貸主が戸別の水道料金の請求等の事務手続きを行っていることから、手数料を上乗せして徴収する貸主もあるようです。参考資料)賃貸借トラブルに係る相談対応研究会「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集(改訂版)平成24年2月」より
室内の軽微な修繕
- 入居した時からついている部屋の中の蛍光灯が切れた。自分で取り替えるのか。
- 借主は原則として修繕義務を負わず、貸主に通知する義務があります。ただし、契約内容により、小規模な修繕は貸主に通知することなく、借主の負担で行うことができます。
■解説
賃貸借契約に「電球・蛍光灯・ヒューズの取り替えは借主が行う」旨が入っている場合には、貸主に連絡することなく、自分の負担で取り替えることができます。参考資料)賃貸借トラブルに係る相談対応研究会「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集(改訂版)平成24年2月」より
貸主の修繕への対応
- シャワーのホースが破損した。大家に修繕を依頼しているが、いっこうに直してもらえない。不便なので早く直して欲しいのだが、自分で勝手に直して良いか。
- 原則として貸主の承諾が必要です。
■解説
修繕の必要がある場合、原則として、貸主に通知する義務があります(民法615条)。場合によっては依頼内容を書面で通知したり、自ら修繕する意思がある場合にはその旨を伝えた上で同意を得たりする等の方法で自らの意思を貸主に示すことが有効である場合もあります。
なお、契約上、軽微な修繕について、借主が行う旨がある場合は、借主の負担にて修繕することができます。参考資料)賃貸借トラブルに係る相談対応研究会「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集(改訂版)平成24年2月」より
競売による建物の所有者の変更が借主の権利・義務に与える影響(原則)
- 入居中に競売により建物の所有者が変更になった場合、引き継がれる借主の権利及び義務はなにか。
- 入居中に競売により所有者が変更になった場合に引き継がれる権利の有無は、借主の入居時期により異なります。
■解説
競売により貸主が変更になった場合は、抵当権設定・競売手続開始と入居の時期の関係により、以下のとおり権利関係が異なります。これは入居時点で、抵当権の設定が登記されていた建物を賃借した場合について、短期賃貸借を廃止する法律が平成15年に成立し、平成16年4月1日から施行されていることによるものです。(1)平成16年4月1日以降に入居した場合
1)抵当権設定前に入居した場合には、売買の場合と同様、変更前の所有者の賃貸借契約に伴う権利及び義務が引き継がれます。
2)抵当権設定後に入居した場合には、原則として、変更前の所有者の賃貸借契約に伴う権利及び義務が引き継がれません。
2-1)競売手続開始前に入居した場合のうち、
2-1-1)賃借権設定登記がなく、または賃借権設定登記前に設定された抵当権者全員の同意の登記がなければ(民法387条1項)、競落後6ヶ月は借主の居住が認められますが(民法395条1項1号)、6ヶ月後には退去することになります。
2-1-2)賃借権設定登記があり、かつ賃借権設定登記前に設定された抵当権者全員の同意の登記があれば、売買の場合と同様、変更前の所有者の賃貸借契約に伴う権利及び義務が引き継がれます(民法387条1項)。
2-2)競売手続開始後に入居した場合には、競落後、借主は直ちに退去することになります。(2)平成16年3月31日までに入居した場合
1)抵当権設定前に入居した場合には、売買の場合と同様、変更前の所有者の賃貸借契約に伴う権利及び義務が引き継がれます。
2)抵当権設定後に入居した場合には、原則として、変更前の所有者の賃貸借契約に伴う権利及び義務が引き継がれません。
2-1)賃貸借契約の期間が3年以内の場合、賃貸借契約期間の終了までは変更前の所有者の賃貸借契約に伴う権利及び義務が引き継がれます。
2-2)賃貸借契約期間が3年を超える場合、競落後、借主は直ちに退去することになります。参考資料)賃貸借トラブルに係る相談対応研究会「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集(改訂版)平成24年2月」より
知らぬ間に保証人とされていた
- 突然、不動産業者から連絡があり、保証人として、兄の未納分の家賃8ヶ月分を支払うようにいわれた。どうやら、兄が勝手に私を連帯保証人とし、賃貸契約を結んでいたようである。その後、兄が行方不明となったため、不動産業者は保証人の私に連絡したとのことであった。兄とはもう5年も会っておらず、また、現在も連絡がとれない。支払う必要があるか。
- この時点では支払う必要はないと考えられます。
■解説
まずは、不動産業者に自分は知らなかった旨を伝え、契約がどのような状況で成立したのか(連帯保証人の印鑑を持っていたのか、委任状をもっていたのか、等)を尋ね、状況を確認すると良いと考えられます。その上で、表見代理の成立が疑われる場合には、弁護士等の専門家やADR機関等法律の専門機関に相談した方が良いと考えられます。参考資料)賃貸借トラブルに係る相談対応研究会「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集(改訂版)平成24年2月」より